#002 白い香りの向かう先 ─ 積丹
北海道・積丹。
雪解けの水が海へと流れ、海霧がゆっくりと大地を包み、森はまだ目覚めきらぬまま、薄い緑をまとっています。
光は低く、影は細く長くのび、冷たく湿り気をふくんだ空気の中に、かすかに“白い香り”が漂います。
──そんな気配から、積丹の春は始まります。

積丹の森を歩くと、ふと風のすき間から“白い気配”が届く瞬間があります。
甘い花の匂いでも、草木の青さでもなく、光が溶けたような淡く静かな気配。
その淡い気配の先に、白い花──キタコブシがひっそりと姿を現します。
春の積丹に静かに咲くこの白い花は、薄い緑から雪のような白へと透きとおり、風に揺れるたびに空気をふんわりと明るくします。
香りは控えめで澄んでいて、北の厳しい自然に育まれた、しなやかで凛とした白さを湛えています。

キタコブシは、花だけでなく、葉にも、樹皮にも、ほのかな香りが宿ります。
花はやわらかく、葉はすこし青く、樹皮はほんのりとスパイシー。
どれも主張しすぎず、ただ自然の輪郭を静かに描くように広がる優しい香りです。
街の焙煎所で生まれた、熱と集中の香り。
北海道の森に咲く、白く静かな香り。
遠く離れた場所で生まれ育った二つの香りが、積丹の蒸留所で静かに交わろうとしています。
